そう、わたしたちは、血液までをも好きな色で見ることができるのだ。光学水晶体によって。

一千年の夜のあと

Story

はるか未来、LEDの化合物による色と光に助けられ、人類は地下での生活を営んでいた。もう太陽光を焦がれることもやめたわたしたちは、やがて色の意味を見失う――。

About

写真→WEBページ→本文の順で作成。WEBページを作っていたはずが、いつのまにか小説みたいなものを書いていたんだ。何を言ってるかわからねーと思うが

Photo & Word

Psyche / 桐原さくも様
写真をお借りしました。ページおよび本文は添え言葉の「実体のない色ほどうつくしい」より着想。ありがとうございました。

 いつの頃からだろう、この世界に、色に意味を見いだせない者が出てきたのは。
 わたしたちの網膜に異常はなく、正常に――という表現が適切かどうかはさておき――色を識別することはできる。けれども感情をかき立てられない、と言われている。どんな色を見ても、それによって気分が左右されることがないのだ。
 おかげで色による心理学は意味をなくし、誰もが気兼ねなく様々な色をまとえるようになった。自由になった。自在になった。事実、老若男女などのカテゴリやレッテルによる色分けは古いピクトグラムのなかでしか存在せず、赤血球の名にどうして赤の文字が含まれているのかは、もはや生物のトリビアとして存在するのみになった。
 そう、わたしたちは、血液までをも好きな色で見ることができるのだ。光学水晶体によって。

「時間ある?」
 映画を見ている途中で、通信が入った。
「あなたの話をみんな聞きたがっているの……」
 音声はつづいていたが、強制的にキャンセルする。暇だけれど、暇じゃない。大学サークルで連絡先を交換してからというもの、彼らは最近、ことあるごとにわたしをさそう。
「良かったの?」
 いっしょに映画を見ているアイリスの声がした。わたしがこのシリーズをあまり好きでないことを知っているのだ。
「あいつらの活動、好きじゃない。温故知新っていうの? 意味わからないのに、昔の考えを価値のあるふうにふるまって、いまを変えようとする」
 スローガンは「闇を知れ」。
 光学水晶体の電源を切って本当の色を見ようなどと、宗教じみたことを掲げているのだ。
 わたしは自分の目元に装着された、いわゆるアイマスクタイプの光学水晶体の感度を上げた。
 人類が太陽を失ってから一千年――たしか太陽暦では数百年――と言われている今日、進歩と繁栄のすべての源ともいえる光学水晶体は、いわばLEDの集合体だ。赤外線で周囲を捉え、色づけをして、わたしたちに見せてくれる。まさに眼の代わりであり、太陽の代わりでもあり、わたしたちは、これ以外の光を、もう長いあいだ見ていない。
 それなのに、この光源を捨てよという政治家や宗教家は、なぜだか後をたたないでいる。でもそれが友人にまで及んでいるのは、さすが世紀末といったところだろうか。
「わたしは悪くないと思うな、たとえ形だけだとしてもね。実際にやってみないと、わからないかどうかも、わからないままじゃない」
「無知を知れ?」
「そうじゃなくてね……」
 映画は山場にさしかかり、かつてのスター俳優たちがアクションを繰り広げているにもかかわらず、アイリスは会話を続けた。
 そのことにもおどろいたが、何より内容が呪文のようで、わたしは無意識のうちにクッションを抱く腕に力をこめていた。その重圧がアイリスに伝わって、彼女も抱き返したのだろう、わたしが座るシートが軽く身体を押してきた。ふたたび、今度は意識してゆっくりと、クッションを抱く。同じ強さで返された。
 わたしたちは同じ空間にいるわけではない。カプセルに包まれた1人用のシートと光学水晶体のアイマスク、何より電波でつながっている。
 毎日会っている。話をして、おたがいに触れて、存在をたしかめている。
「電源を切ったら、アイリスに会えない」
 あいつらは光学水晶体の電源を切るだけではなく、実際に会おうとする。意味のないことだ、途方もない費用と時間がかかるというのに。
 はるかなる光源をなくしてからというもの、人類は移動せずに生活を営む方法をえらんできたのだ。窓も、扉も、地上であることにも意味はない。そのはずだ。

「時間、ある?」
 その日の通信は、大学の教授からだった。
「バイトなんだけど、人が集まらなくてね、困ってるんだ」
 一方的な聴覚通信で、教授はそう続けた。
 肉声ではなく、機械によって再現された音声は、しかし男性のものだからか新鮮だった。
 天候を専門にしている彼の授業は前期に履修し終えているが、長期休暇中も何度か声をかけられた。断ることもあったが、いまは時間がある。一段落したアイリスとの映画鑑賞を再開しないかぎり、わたしはここのところずっと暇だ。
「わたしでよければ。でも、まず、詳細をください」
 人が集まらない理由は知れている。みんな、あの活動で時間を取られているのだ。移動をしないわたしたちはもう、コンピュータの前に座る以外にやることはなく、仕事も食事もほとんどそれで事足りるはずなのに、もったいない。
「やあ、レチナか。久しぶりだね。詳細を送るときみは嫌がるよ。イエスって言ってくれないと。もちろん必要なものは送ろう」
「断りませんよ。わたしをスカウトする人なんて、教授くらいなものですから。わたしだって、たまにはインスタントじゃなく、レストランで食事を楽しみたいと思ってるんです」
 皮肉を言ったつもりはなかったが、教授は一度口をつぐんだようだった。わたしがレストランに行くだけの労力を察知したのかもしれない。
「奮発してくださいね」
 明るくそう言うと、緊張がとけたように息をつく気配がした。
「デリバリじゃだめかい」
 教授は口頭で要点をすこしだけ話すと、データを送ってくれた。
 中を参照をして、嫌がると言ったその意味をのみこむ。こんなの、他にやりたがる人は大勢いるだろうに。どうしてわたしに――? いや、どうしてなんて、問うだけ無駄だ。この内容だとすれば、請け負える人は限られている。教授は地上に住む生徒に声をかけたにすぎないのだろう。
「遅れないよう、気をつけます」
 相手は地下三百階。肉声はノイズが混ざってなかなか精確には届かない。わたしの声は、再現された、きっとすてきな女性の声として教授の耳に届くのだろう。わたしの耳に届く、すてきな教授の声と同じように。
 通信状態をスリープさせる。アイリスに連絡を取ろうか迷ったが、やめておいた。シートをフラットにしてクッションを抱き目を閉じる。動きを察知して、カプセル内の空気圧が変わる。LEDは発光をやめ、アイマスクの温度がわずかに高くなるのを感じた。

 睡眠をとったあと、わたしはカプセルから出て栄養剤を飲んだ。
 カプセルと冷蔵庫があるだけでいっぱいの狭い部屋は、当たりまえのように窓がない。
 かんたんなストレッチを音声に従って済ませて、部屋のすみで丸くなっているパワードスーツを引っ張り出した。体温維持に優れたものとすこし迷って、筋力をカバーするほうを身につける。トレーニングはしているものの、規定よりもはるかにすくないことは自覚していた。生身のままで大地へおりる自信はない。
 千年前、地球はその自転をゆるめたという。もちろん、かねてより世界中の様々な機関が計算し、予測を立てていたが、人類がえらべる道は限られていた。
 地下か、宇宙か。
 けれども宇宙は未知数なところが多く、現実的ではなかった。地下をえらぶ者たちが多くいた。
 やがて厚い雲が地表をおおい、酸素濃度が低くなった。各地の火山が活発化し、行き場のない硫黄などの有害なガスの濃度が高まる。教授はいまの時代を、たしか冗談めかして氷河期と呼んでいた。
 わたしの一族はとても立派なシェルターを持っていたから、ごく自然にそこを住処としたらしい。
 でも、いま住んでいるのはわたしだけだ。
 曾祖父が亡くなったとき、そろって地下へと居を移した。わたしもそれに従ったけれど、今年、大学進学と自立を理由に掲げ、ここへ戻ってきたのだった。
 掃除も何もしていないシェルターのなかは、わたしの生活空間以外、すっかり息をひそめている。何世代かまえに使い果たした白熱灯――わたしはそれが光っているところを見たこともなければ想像もできないけれど――の残骸は、いつまでたっても片づかない。
 気をつけて歩みを進め、物置からステッキとカメラを取り出した。カメラはバッグに入れて肩に提げた。そしてヘルメット。大気から酸素を抽出する機能をたしかめる。
 出入り口まで行って、一呼吸。教授が送ってくれたカウントダウンのプログラムを立ち上げる。視界のすみに、青い光で描画された。
 眼が、ちかちかする。青の彩度を下げて、ほとんど黒の状態へと設定を変えてやる。
 そしてちょうどいい時間まで待って、狭い階段をあがって二重扉をひらいた。
「時間ある? レチナ、応答をして」
 不意の声に、扉をささえる手がゆるむ。
 また、彼らだ。
 通信を切った。
 太陽光がないのなら、地上か地下なんて、まったく意味のないことだ。結局のところ、光学水晶体に視覚は頼りきりとなるのだから。
 それなのに、いったい何を見たがっているのだろう。
 闇を知れ?
 ならばここへ来てみればいい。地下で禁止されている炎をおこしてみればいいのだ。時間は有り余っている。それでも彼らはやらない。ただただ話を聞きたがる。怖いから。
 アイリスは、怖がらなかったのに――。
 ふっとめまいがおそった。
 壁に手をつく。
 ステッキを取り落とした音が、ひびいた。
 意識する。――呼吸。ゆっくりと、ととのえる。
 カウントダウンに焦点を合わせ、1分、気持ちを落ちつかせることに集中した。
「大丈夫、レチナ、大丈夫よ……」
 シェルターの入り口にしゃがみこみ、膝をかかえた。
 このバイトのお金が入ったら、アイリスになにをプレゼントしよう。
 そのタスクを意識的に拾いあげる。それは、楽しい気持ちを思い出させてくれた。

 充電していたクルマに乗って、街を走る。
 かつては免許なんて必要だったようだが、もはやそんなものは意味がない。操作はゲームで覚えたとおりだ。地上へ戻ってから、好奇心から、何度か運転したこともある。
 映画のなかとはちがい、コンクリートはひび割れし、細かなアップダウンの多さにわたしは幾度も顔をしかめた。
 教授が指定した海へは一時間もかからず到着した。
 地震予報がマイナスであることを確認して、外へ出る。刺すような空気に、肌が粟立った。パワードスーツによってある程度守られているはずだが、それでも寒い。動くのがおっくうになり、なにかもう一枚着こめば良かったと後悔する。寒いということの意味を、身をもって思い出した気がした。
 それでも外気温は、昨日よりも五度高いようだった。まだ上昇していく。太陽が近づいているのだ。
 わたしはカメラを三脚に立て、電源を入れた。
 教授の依頼は、日の出の録画だった。
 今日、この地域で見られるからと、他の生徒たちにも前々から声をかけていたらしい。
 地球は自転を弱めたおかげで、太陽の恩恵を最大限に得ていたというかつての軌道周期からそれている。それと厚い雲がかさなって、この日の出は一千年ぶりになるのだという。
 日の出自体は、何度も映像で見ていた。
 それなのに、この、気持ちがしずまるのはどうしてだろう。
 発光色によって色づけされたそれらは、わたしが指定したとおり、白と黒の濃淡でしかない。色をえらぶことに興味を失ってからというもの、わたしの世界はずっとそうだった。
 なのに――それなのに。
 色がわかる。
 たしかめたい。それは自然に胸の奥からわき上がる、あらがいようのない衝動だった。
 わたしは無意識のうちに、光学水晶体の光源を落とした。突然の変化に、視界がおかしくなる。目を開いているのに暗い。それでもわかる。
 海が、波が、うねりを上げている様子が見える。
 それらはひとつも光を放ってなどいないのに。
 わかる。
 太陽の光を求めて瞳孔がひらく。
 わたしのこの水晶体は――網膜は、その象をたしかにむすんでいる。
 とどまることなく動きゆれる水面を、風にさざめく森を、千切れる雲を、その向こうに広がる、深い深い空を、見ている。
 知らないうちに息を詰めていたことを自覚して、わたしは胸にためたそれを、慎重に吐き出した。
 そこに宿る色のひとつひとつを、どうして何色と呼べるのだろう。
 わたしは――わたしたちは、一体いままで、なんの色を見ていたのだろう。
 いくら発光色の技術が高まったとして、その粒子は結局のところ、十六桁で現されるたったひとつの色でしかないと思い知る。
 でもちがうのだ。物質はただ、そこにあるだけ。
 光を放ってなどいない。
 反射しているだけなのだ。
 そこには何千億通りもの緑が――何千億通りもの青が、黄色が、常にせめぎ合っている。
 そして、赤。
 燃えさかる、あれは朝焼けではない。
 森林が、燃えている……。
「レチナ! どこにいるの? すごい、どうして!」
 取り落としそうになった意識をむすぶ声が、鼓膜を叩いた。
「アイ、リス?」
「そうよ、アイリスよ。肉声を聞かせて! 届くわ、そこからなら。わたしの声が届いているように!」
「アイリス」
 わたしは呆然としながらも、設定を変えて、もう一度呼んだ。
 何年ぶりかに聞く友人の、そのままの声が、記憶の中のものを鮮明にさせる。
「アイリス、あの、大学のバイトで……」
「バイト? そう、なんて危険なバイトなの? 雇い主にクレームを入れてあげるわ。いくら雲が薄れてガスが弱まるからって」
「待って、アイリス。どうして声がとどくの?」
 わたしはなるべく森林の炎を見まいと視線をずらす。
 彼女は軌道エレベータのはるか上空、大気圏に住んでいるはずだ。だからいつも彼女の声は、かつていっしょに過ごしたころの声を元に再現されたものだった。
「決まってるじゃない、地球を見に来たのよ」
 海を背中にしたとき、自分の影を見た。
 だれかの足を見た。
 アイリスだった。パワードスーツに身をつつみ、立っている。
 昇る陽が彼女のヘルメットの中を照らす。その顔をおおう火傷の跡を、鮮明に。
「わたしじゃなくて地球! 地球を見て」
 アイリスが、わたしの背後を指さす。
 その明るい虹彩は、かつて憧れた色のまま。

 アイリスはもともと地上に住んでいた。わたしの家と同様、いやそれ以上の、立派なシェルターを持っていたのだ。
 家族ぐるみで仲が良く、数少ない地上の友人としてわずかな時間を共に過ごした。わたしの曾祖父が亡くなって地下に移り住んでからも、通信を通じてたくさん遊んだ。
 政治に携わるアイリスの両親は、彼女が高校に上がるころ、反光学水晶体の活動に積極的になっていく。
 幼い頃は意識していなかったが、思えば片鱗はいくつもあったのだ。だから一般庶民であっても、通信をせずに会える年頃のわたしたち家族との交流を続けていたのだろう。
 アイリスの家族が、太陽光を求めて軌道エレベータの高層への移住を決めたときだ。
 彼女はそれに反対して、古いマッチを擦った。
 ここにも光はある、と。
「よく顔を見せて」
 五分程度ならと、わたしたちはヘルメットを脱ぎ、外気に髪を遊ばせていた。
 アイリスの手がわたしの肩にかかる。その痛々しい火傷跡にひるみそうになりながらも、わたしは彼女へ顔を向けた。
「大人っぽくなったわね」
「アイリスこそ……」
「言いたいように言っていいのよ」
 ひたいがつくくらいに顔を近づけて、アイリスは言った。あたたかい彼女の吐息に、目を細める。
「ごめん、正直、怖いかな。もっと薄いと思ってた。手術は受けたんでしょ?」
「意地よね。わたしの意地。親に、この傷を見せつけて生きてやるんだって、途中で治療を拒否したの」
「意地か」
「ばかなことしたなって思ってるわよ」
「そんなことない。それを言ったらわたしだって、地上での暮らしは意地みたいなものだし」
 地下五百階の暮らしでは、大気圏へと移り住んだアイリスとの通信に障害が出る。
 わたしは当時、気の合う友人に恵まれて、いつでも遊びの誘いがあった。それでもどうしてか、アイリスのことが気がかりで仕方がなかったのだ。
 彼女のことを特別だと思っていた。
 でも、どうして特別に思ったのか、その理由がいまならわかる。
 彼女の背中に手をまわす。
 クッションではない。その身体を、力いっぱい抱きしめる。
 首すじからただよう石けんのかおり。わたしのほおを撫でる黒髪。この背にまわされた、うで。鼓膜を叩く声。なによりもわたしをとらえる大きな瞳。うすい色の虹彩。
 そのひとつひとつを、わたしもこの目に焼きつけてきた。
 色の粒ではなく、反射された光で彼女という象をむすんできたのだ。たしかな影をともなって。
 アラームが鳴る。
 わたしたちは、どちらからともなく身体を離し、ヘルメットを身につけた。純度の高い酸素を吸いこむ。思考が冴えていく。
 そして太陽がふたたび雲にかくれるまで、この瞳孔がもう象をむすべなくなるまで、ふたりならんで空を見ていた。

「時間ができたら連絡をして」
 映画を見ている途中で入った通信を、キャンセルする。
「良かったの?」
 アイリスが言った。
 彼女がこのシリーズが好きではないことを、わたしは知っている。
「この映画が終わったら連絡する」
「そうなんだ」
 彼女はうれしそうだ。
 どうやら以前から、わたしが多くの時間をカプセルの中で過ごしていることを気にかけていたらしい。
 一度は大学の彼らもあきらめてくれていたようだが、わたしが教授のバイトをしたと知って、ふたたびアプローチをしてくるようになった。
 ちょっとのつもりでチャットに混ざったら、同じように教授のバイトをしたと言う。それぞれちがうポイントで観測をしたから会わなかっただけなのだ。
 それ以外にも地上へ出て来ているらしいとわかって、わたしもすこし気がゆるんだ。アイリスの家族のこともあって、夢しか語らない理想主義者だという先入観が強くあったと自覚した。
「今度ね、うちに招待することになったの」
「へえ、すごいね。電力、大丈夫なの?」
「一応蓄電してる。でもみんな、バッテリ持ってくるんじゃないかな」
 教授の話では、これからしばらく、太陽光が地上にとどくことが多くなるという。ラジオもニュースも聞かないわたしはなにも知らなかったが、どうやら軌道エレベータに住む人たちのあいだではすでに知れ渡っていることらしく、地下でも噂になっていたようだ。
 それが何年続くのか、どれくらいの周期で朝を見ることができるのかの予測を立て、正式な発表がされれば、地上にまた人が増えるかもしれない。ほんのわずか数世代であったとしても、人々が太陽光を得る意味をすっかり意識から失くしているとしても、地上へ出て、この地球上にあふれる色をその目で見たとき、なにもかもを思い出すはずだ。そうしてまた、次の千年にそなえていく。
「アイリスもおいでよ」
 わたしはここ数日、ずっと考えていたことを言ってみた。
 きっと対面していたら、臆して言えないであろうことだ。
「えっ? いいの?」
 その反応に、笑みがこぼれる。
 千年先までは、さすがに待てない。わたしは筋肉痛が出はじめた足をゆっくり動かす。
 目標はパワードスーツなしでダンスを踊ることだけれど、この計画をアイリスに打ちあけるには、まだすこし勇気が足りない。

END - 2016.04.05
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